私たち税理士は、「士業」と呼ばれます。
士業というと固いイメージばかりで、あまり縁がないので業務内容について深く知らない方がほとんどではないでしょうか。
この記事では、税理士の坂根が解説します。
- 「士業」は弁護士や会計士など、「〇〇士」とつく国家資格
- 国家資格でない民間資格も増えているので注意
- それぞれの士業の役割の違いを解説します
なお、税理士を目指す方向けに「税理士試験に21歳で短期5科目合格した勉強方法などを公開」の記事がありますので、税理士試験を受験される方はこちらの記事をご覧ください。
士業とは?
士業(しぎょう)とは、以下のように「士」という言葉が含まれる職業のことを指します。
ポイント
- 弁護士
- 司法書士
- 社会保険労務士(社労士)
- 行政書士
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- 公認会計士
- 税理士 など
これら士業は基本的に国家資格であり、「法律に基づき特定の業務に従事する知識や能力があること」が資格によって証明されています。
したがって、資格を持っていない方がこれらの資格に関する業務を行うと、法的処分を受けることがあります。
理由としては、これらの者が行う業務が専門的であり、無資格の者が勝手に業務を行うと、依頼者に対して適切なアドバイス等がなされず不利益を被る可能性があることなどが挙げられます。
一見きびしいように見えますが、知識が無い人からのアドバイスが許されるのであれば、詐欺行為が横行し、依頼者が泣き寝入りするしかない事態が想定されます。
実際に、士業を装って詐欺を行う人もいるレベルです。
代表的な士業の種類:それぞれの士業の違いについて
次に、弁護士など各士業について簡単に解説します。
弁護士とは
皆さんご存じ弁護士は、弁護士法に基づき法律全般に関する業務を扱います。
弁護士は裁判所で活躍しているイメージが強いですが、実際はもめごとが起こる前に相談し、もめごとを防ぐ役割も担っています。
たとえば、身近なところでいうとリーガルチェックがあります。
リーガルチェックとは、取引先と結ぶ予定の契約書の内容が自社にとって不利益を被るものでないか確認を受けることであり、金額が大きい契約を結ぶ際は、弁護士によるリーガルチェックを受けることで安全に取引を行うことができます。
また、ビジネスがうまくいっているときは問題ないかもしれませんが、必ずしもうまくいくとは限りません。
トラブルが起きてから弁護士を捜した場合、トラブル発生から時間が経過してしまい、手遅れの状態になってしまうこともあります。
企業がトラブルに巻き込まれた際、すぐに相談できる顧問弁護士がいると会社にとって心強い味方となるでしょう。
有名な大手の法律事務所としては以下の4つが挙げられ、四大法律事務所と呼ばれています。
これらの事務所は、複雑な高難易度の案件を扱っていると言われています。
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- アンダーソン・毛利・友常法律事務所
- 長島・大野・常松法律事務所
- 西村あさひ法律事務所
- 森・濱田松本法律事務所
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なお、最近では所属弁護士数が急増している「TMI総合法律事務所」を含めて、五大法律事務所と呼ばれることもあります。
司法書士とは
司法書士は、司法書士法に基づき登記関連などの業務を行います。
代表的な仕事内容は、登記(法務局への申請手続き)を依頼者の代わりに行うことです。
会社の設立登記や、相続が起きた際に自宅の所有権をお子さんに移すこと(所有権移転登記)等が可能です。
また、会社名の変更を行う場合や、役員を変更する場合も登記が必要です。
そのような場合に、定款(会社の規則)の作成から登記申請手続きまで、トータルでサポートしてくれる司法書士もいます。
自分で登記をするには、調べたり時間がかかるうえ、間違えれば自己責任です。不安なく登記を行うには司法書士のサポートは必須と言えるでしょう。
もちろん人に寄りますが、単に登記申請の代行をするだけでなく、一連の相談にのっていただけることも多いので、とても頼りになる存在です。
社会保険労務士(社労士)とは
社会保険労務士(社労士)は、社会保険労務士法に基づき社会保険手続きなどの業務を行います。
社労士の強みとするところは社会保険関連の業務の他、給与計算などが挙げられます。また、人事労務に関するコンサルティングを行っている方も多いです。
給与計算業務においては、会社が給料を支払う際は源泉所得税や社会保険料の天引きを行う必要がありますが、天引きすべき金額の計算を代行していただくことが可能です。
また、就業規則や雇用契約書の作成、社会保険に関する書類手続きの代行、従業員の入社時や退職時の手続きなど、起業当初にこれらの手続きを独自で行う余力が無いのであればトータルで依頼することをお勧めしています。
特に、ベンチャー企業では、起業当初に会社の規則をしっかりと整備しておいた方が望ましく、「ベンチャー企業に強い社労士」という方もいます。
行政書士とは
行政書士は、行政書士法に基づき役所等に提出する書類作成業務をメインとして行います。
行政書士の業務範囲は非常に広く、何でも屋さんと言われることもあります。
業務範囲があまりにも広いため、皆それぞれ独自の強みを持っているケースが多いです(得意分野以外については詳しくなく、何らかの手続きに特化していることが一般的です)。
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- 外国人労働者の受け入れ手続き(ビザ申請など)に特化した行政書士
- 会社設立時の許認可(警備業や建設業など、開業するために公的機関の許可が必要な場合があります)取得に特化した行政書士
- 相続手続きに特化した行政書士 など様々です。
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主要な業務は書類の作成代行ですが、中にはボディガードを請け負っている武闘派の行政書士もいますので、依頼したい業務に応じて相談する方を探す必要があります。
不動産鑑定士とは
不動産鑑定士は、土地など不動産の鑑定評価に関する専門家です。
弁護士や公認会計士と同様に、三大国家資格の一つと言われ、試験の難易度が高いことで知られています。
なお、不動産鑑定士の試験については現役不動産鑑定士のサトさんが運営されている「コレハジ」で勉強方法など解説されていますので、参考にしてみてください。
弁理士とは
弁理士は、弁理士法に基づき知財特許(特許権、実用新案権、意匠権、商標権など)の出願手続きの代理などを行います。
たとえば、このような時にお願いする方です。
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- 「〇〇アドバイザーの資格を作りたい、商標登録したい。」
- 「〇〇のロゴを商標登録したい」。
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既に他の人に商標がとられていないかの確認や、商標登録する際の手続きの代行まで行っていただけるようです。
一発で商標登録が通らないこともあるそうなので、実力差があらわれる仕事だと思われます。
同じ人物が「くまクッキング」「きまぐれクック」「バズレシピ」とYouTuber関連の商標を取ろうとしてるんだが。。。
私の「くまクッキング」って名前使えなくなったら「くまクック」に変えるしかないのかな。 pic.twitter.com/OxjwvSrZ3j
— くまクッキング@登録20万人YouTuber (@kumacooking) August 26, 2021
Youtuberの商標を、全く関係ない人が申請して奪ってしまうという事案もあります。
チャンネル登録者数が数十万人、数百万人のチャンネル名を奪われて、その名前を使えなくなったら大損害です。そのため、弁理士の仕事もまたかなり重要です。
公認会計士(会計士)とは
公認会計士(会計士)は、公認会計士法に基づき監査業務を行います。
会社の資本金が5億円以上か負債が200億円以上の場合、作成した決算書について外部からのお墨付きが必要であり、その外部からのお墨付きを与えるのが公認会計士による会計監査です。
会計監査を受けることによって、株主など会社外部の人間に対して適正な決算書が作成されている(適正な運営がされている)ことの証明を行うことができます。
なお、公認会計士は主に四大監査法人(Big4)と呼ばれる監査法人(※)に勤務しているため、独立開業している方は多くありません。
公認会計士も税理士登録が可能なため、独立開業し、公認会計士 兼 税理士として仕事をされる方も中にはいます。
その場合、税務業務よりも会計に関するサポートを得意としていますので、NPO法人など、株式会社以外の特殊な会計まわりのサポートを行っている方が多いです。
※四大監査法人・・・EY新日本有限責任監査法人、有限責任あずさ監査法人、有限責任監査法人トーマツ、PwCあらた有限責任監査法人
税理士とは
税理士は、税理士法に基づき税金関連の業務を行います。
主な業務は税金関連の税務署等への書類の作成,提出代行や、確定申告(支払うべき税金の計算と書類の提出)のサポートです。
公認会計士と税理士はよく混同される方が多いですが、実際は全くの別物です。
会計士は会計監査の専門家であり、税理士は税務(税金)の専門家です。会計士も税理士も、会計とは切っても切り離せない関係にありますが、明確に得意分野が異なります。
なお、税理士というと「節税」のキーワードが挙がりがちですが、節税の支援は本来税理士業務ではないと考えられます。
税理士は「税に関する専門家として、独立した公正な立場において、法律に則って適正な納税のサポートを行うことを使命」としているからです。
上記の使命から、本来であれば税理士は依頼者と税務署のどちらの立場にも立たず、独立した第三者目線で独自の専門的知見、法律の解釈に基づき意見をすべき立場と考えられます。
ただし、「独立した公正な立場」であって、依頼者と税務署の「中立の立場」ではありません。
なので、依頼者寄りのサポートを行うことが一般的です。ただし、依頼者に寄りすぎて考えなしに経費を突っ込んだ場合、税務調査で文句を言われ、余計に税金を払うことになるケースもあります。それは、最終的に責任があるのは依頼者自身だからです。
結果、依頼者と税理士で揉めるケースもありますので、やはり、独立した専門家としての意見を基にアドバイスを行うことが、結果的に依頼者にとっても有益になります。
なお、税務署と揉めないように税務署寄りの考えで物事を進める税理士(=知らないうちに依頼者が損をしている)も中にはいます。
税務署は、税金を多く納めた分には何も言いませんが、納めた税金が少なければ罰金付きで払うよう求めてくるからです。
したがって、普段からコミュニケーションをとり、相談しやすい方を探すことが大切です。
弁護士や税理士への相談は、単発では会社の業務内容や相談の背景に対する理解が浅く、一般的な回答にならざるを得ないこともあります。
顧問の弁護士等がいると会社の業務内容などを理解しているため、日常業務から生じる問題や疑問に対し、適切なアドバイスを受けることができるため、身近な方から良い人を紹介してもらうと良いでしょう。
税理士を目指す方へ
税理士を目指す方向けに、10万人が閲覧した「税理士試験に21歳で短期5科目合格した勉強方法などを公開」の記事がありますので、税理士試験を受験される方はこちらの記事をご覧ください。
その他の士業(?)
勝手に名乗っているだけの「士」
たとえば近年増えているFPについては、資格が無くてもFP事務所を開業することができます。
これは、FPは国によって認められた独占業務があるわけではなく、民間団体が作り、広めた資格だからです。こういった資格は、取っても取らなくても変わりません。
こんな士業(?)には気を付けよう
上記で説明したように、「士」が付く資格は基本的に国家資格であり、ある程度の能力が認められています。
一方で、資格は民間でも勝手に作ることができるため、実力の無い「〇〇士」の資格を作るケースが増えてきています。
- 〇〇相談士
- 〇〇診断士
- 〇〇アドバイザー
こういった資格の中には、単なる「資格ビジネス」として、受験者からお金を稼ぐことを目的としている団体もあるため気を付けてください。
その資格を取ったところで何のメリットも無いことが多いです。
一般的に士業の枠には入らない
以下は批判の意図はありませんが、数年前に名称変更を行い、名前に「士」を付けています。
- 宅地建物取引主任者⇨宅地建物取引士
- FP技能者⇨FP技能士
宅建は、不動産会社には必ず1人はいなければならない等の独占業務がありますが、FPは特に独占業務が無く、名乗れるだけしかメリットがありません。
ちなみに、「士業」の範囲は先ほど説明した弁護士などの国家資格のみであり、これらの資格は「士業」に入らないと言う方が多いです。
基本的には
- 宅建=不動産会社の人
- FP=保険会社の人
だからですね。
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士業事務所に就職するためには?
士業事務所では、中途採用が一般的です。そして、大手の事務所だから待遇が良い、小さな事務所だから待遇が悪いというわけではありません。また、資格を持っていない状態であっても、税理士や弁護士の補助者として活躍する例は珍しくありません。
一般的には、事務所に数年勤めたうえで独立することになります(税理士の場合は、税理士登録するために2年間の事務所経験が必須です)ので、業界経験を積むためには、転職サイトのJAC Recruitmentなどに登録すると良いでしょう。
そのほかには、東証一部上場企業の「MS-Japan」が有名どころです。
MS-Japanは、税理士などの士業や、経理部など事業会社の管理部門の求人を多く取り扱っている転職サイトです。
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